vol.379 はずれ馬券の必要経費性
関東地方では桜も満開を過ぎ、桜前線は徐々に北上しつつあります。ここ何日かで小学校や中学校などの入学式が相次ぎ、本格的な春を迎えつつあります。いっときの春を楽しみたいものですね。
さて、過日、競馬のはずれ馬券が必要経費に当たるかどうか、という裁判で国が負けました。宝くじは当選しても非課税ですが、競馬の当たり馬券、すなわち払戻金は従来「一時所得」とされており、国は「一時所得」として納税者を訴えましたが、最高裁は「雑所得」として、はずれ馬券を当選金から控除することを認めたのです。これは、馬券の購入を、いわば「仕事」的に、さまざまな工夫を凝らし、継続的に、かつ大規模に行っていた場合、雑所得でOKということです。今回の裁判では、所得税法上、営利を目的とする継続的行為から生じた所得は、一時所得ではなく雑所得とされるので、この営利を目的とする継続的行為かどうかが判断の分かれるところでした。
この勝訴した被告人(納税者)は、自宅のパソコン等でインターネットを介して日本中央競馬会が提供するサービスを利用し、馬券を自動的に購入できる市販のソフトを使用して馬券を購入していました。 そして、被告人は、馬券の払戻金の回収率を高めるため、インターネット上の競馬情報配信データを自ら分析し、このソフトに条件を設定して馬券を抽出させ、自らが作成した計算式によって購入額を自動的に算出していました。この方法により、被告人は、毎週土日、中央競馬の全ての競馬場のほとんどのレースについて、数年以上にわたって1日当たり数百万円から数千万円、1年当たり10億円前後の馬券を購入し続けていたのです。
また、被告人は、この購入により、個々の馬券を的中させて払戻金を得ようとするのではなく、長期的に見て、当たり馬券の払戻金の合計額と外れ馬券を含む全ての馬券の購入代金の合計額との差額を利益とすることを意図し、実際に平成19年から21年までの3年間は、平成19年に約1億円、平成20年に約2,600万円、平成21年に約1,300万円の利益を上げていたのです。今回、最高裁は、インターネットで長期間、多数回かつ頻繁に、網羅的な馬券の購入により馬券の払戻金を得ることで、多額の利益を恒常的に上げていることから、一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有するといえる、として、はずれ馬券の控除を認めたわけです。判決も驚きましたが、10億円も馬券を買う人がいることに筆者は驚きました。いろんな人がいるもんです。
2015年4月5日号(379号)
このページは、佐藤典哉税理士事務所・株式会社あけぼの会計様が発行されている『あけぼの・経営ニュース』をちくナビ!でも読めるようにしたものです。掲載上、一部元原稿とはレイアウト等に違いがあることをご了承ください。